家族が亡くなったあと、相続財産をどのように分けるかは多くの人が悩むポイントです。遺産分割協議と聞くと難しく感じるかもしれませんが、基本的な流れを理解すれば、円満に進められます。
この記事では、遺産分割協議の進め方を5つのステップでわかりやすくご紹介。合わせて注意点、トラブルになりやすいケース、解決のヒントも解説します。
こんな方におすすめの記事です
- 初めて遺産分割協議に直面している
- 相続財産に不動産が含まれている
- 相続人同士の関係が疎遠・連絡が取りにくい
- トラブルを避けて円満に相続を進めたい
- 期限や必要書類を手早く把握したい
遺産分割協議と協議書とは?
遺産分割協議とは、相続財産の分割方法について相続人全員で話し合うことです。話し合いの結果は、「遺産分割協議書」にまとめ、相続人全員が合意した証明書類として残します。
なお、有効な遺言書があれば遺言に従って遺産を分け合います(遺言執行)。しかし、以下のような場合は改めて遺産分割協議を行う必要があります。
- 遺言書がない
- 遺言書に記載されていない相続財産がある
- 遺言書が無効と判断された
- 相続人全員が遺言書の内容とは違う分け方を希望する場合
遺産分割協議は、相続人全員の合意があれば法定相続分とは異なる割合で分けることも可能です。家庭の事情に合わせて柔軟な分割方法を選べる点が遺産分割協議の特徴です。
遺産分割協議のやり方|5つのステップと協議書作成までの手順
遺産分割協議は以下の5つのステップで進めるのが基本です。順を追って丁寧に進めることで、手続きが整理され、後々のトラブル防止にもつながります。
STEP1|遺言書の有無を確認する
最初に、被相続人が遺言書を残していないかを確認しましょう。
有効な遺言書があれば遺産分割協議は原則不要です。遺言書の効力は強く、相続人の一部が不満を訴えても覆すことはできません。
ただし、相続人全員が同意すれば、遺言書の内容と違う分け方を選ぶことも可能です。その場合は遺産分割協議を行い、協議書を作成します。
遺言書の探し方や効力について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参考ください。
STEP2|法定相続人を確認する
遺産分割協議は法定相続人全員で行う必要があるため、誰が相続人なのかを正確に把握する必要があります。
重要なポイント
不仲な法定相続人がいる場合でも、1人でも欠けているとその協議は無効になります。
法定相続人を確認するためには、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等を取得して調査します。この過程で、知らなかった相続人(故人の元配偶者との子など)が判明することもあります。
法定相続人の範囲と法定相続分について
民法では、相続人の範囲と相続分を以下のように定めています。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者の相続分 | その他の相続分 |
| 配偶者のみ | 全部 | – |
| 配偶者 + 子 | 1/2 | 子:1/2(子が複数いる場合は均等分割) |
| 配偶者 + 父母 | 2/3 | 父母:1/3(父母とも存命の場合は1/6ずつ) |
| 配偶者 + 兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹:1/4(複数いる場合は均等分割) |
ただし、法定相続分はあくまでも目安です。遺産分割協議では、相続人全員の合意があれば法定相続分とは異なる割合で分割することができます。
相続人の確定でお困りの方は、こちらの記事もご覧ください。
STEP3|相続財産を確認し、遺産目録を作る
被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を調べ、遺産の全体像を把握します。
主なプラスの財産
- 現金・預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 有価証券(株式・債券など)
- 生命保険金(契約内容による)
- 自動車・貴金属・美術品など
主なマイナスの財産
- 借金・ローン
- 未払いの税金
- 買掛金・未払金
- 連帯保証債務
調査した財産は遺産目録として一覧表にまとめるのがおすすめです。話し合いの際に全員が同じ情報を共有でき、スムーズに協議が進みます。
専門家活用のススメ
相続財産が多い場合や不動産の評価額計算が必要な場合、自力での調査は困難です。複雑なケースでは早めに専門家にご相談することをおすすめします。
STEP4|分け方を話し合う
相続人全員で、誰がどの財産を相続するかを決めます。
協議の進め方
- 相続人全員での参加が原則
- 遠方居住や病気などで直接参加が困難な場合は、電話や手紙での参加も可能
- 相続放棄をする相続人は協議への参加は不要
遺産分割の方法は大きく分けて4つあります。それぞれの特徴を知り、家族に合った方法を選びましょう。
現物分割|財産をそのまま引き継ぐ
個々の遺産に対して引き継ぐ人を決めていく最も一般的な方法です。
例: 不動産は長男、預貯金は次男、株式は三男
メリット: 手続きが比較的シンプル
デメリット: 財産の価値が異なるため不公平になりやすい
換価分割|財産を売って現金で分ける
不動産などを売却して現金化してから分割する方法です。
メリット: 公平な分割が可能
デメリット:遺産の現物が残らない/売却に手間と費用がかかる/譲渡所得税が発生する可能性
代償分割|代表者が相続・他の方へ現金を払う
特定の相続人が遺産を相続し、他の相続人に現金(代償金)を支払う方法です。
例: 長男が実家を相続し、次男・三男にそれぞれ500万円ずつ支払う
メリット: 遺産の現物を維持できる
デメリット: 代償金を支払える資金力が必要
共有分割|財産を共有名義とする
財産の一部または全部を相続人全員で共同所有する方法です。
注意: 将来の売却時などに共有者間で意見が対立する可能性が高いため、あまりおすすめできません。
STEP5|協議内容を協議書にまとめる
遺産分割協議で合意した内容を協議書にまとめます。
遺産分割協議書の要件
- 書式に特別な決まりはない
- 相続人全員の署名が必要
- 相続人全員の実印での押印が必要
- 印鑑証明書の添付が必要
協議書は、不動産の名義変更や相続税申告など、さまざまな相続手続きで必要な大切な書類です。必ず作成しましょう。
遺産分割協議で合意できない場合の解決方法
話し合いがどうしてもまとまらない場合は、以下の法的手続きを利用できます。
遺産分割調停(まずはこちらを利用)
家庭裁判所で中立の調停委員が間に入り合意点を探る手続きです。感情的な衝突を避けやすいのが特徴です。
<特徴>
- 費用が比較的安い(申立手数料:被相続人1人につき1,200円)
- 非公開で行われる
- 合意に至らなければ審判に移行
遺産分割審判(調停で成立しなかった場合)
調停でも合意に至らない場合、家庭裁判所の審判で裁判官が法的基準に基づき、妥当な分割方法を決定します。
<特徴>
- 決定に強制力がある
- 時間と費用がかかる
遺産分割協議の注意点
協議を進める前に、以下のポイントを押さえておくと安心です。
遺産分割協議のやり直しは原則できない
一度成立した遺産分割協議は、原則としてやり直しできません。
<例外的にやり直しが認められるケース>
- 新たな遺産が発見された場合
- 他にも相続人がいることが判明した場合
- 協議内容に重大な錯誤があった場合
ただし、やり直しを行うと贈与税が発生するリスクもあるため、要注意です。
相続開始から10ヶ月以内に終わらないと不利
協議自体に法的な期限はありませんが、相続税申告は相続開始から10か月以内に行う必要があります。
<分割が間に合わなかった場合のデメリット>
- 未分割のまま相続税申告を行う必要がある
- 配偶者の税額軽減などの特例が適用されない
- 小規模宅地等の特例が適用されない
特例は後で「更正の請求」により適用できますが、手続きが煩雑になります。スケジュールは逆算して進めましょう。
借金には法定相続分が適用される
相続財産にマイナスの財産(借金)がある場合、協議で特定の相続人が引き継ぐことを決めても、債権者は法定相続分に従って他の相続人にも返済を請求できます。
借金を相続したくない場合の対処法:
- 債権者の承諾を得る
- 相続放棄を行う
- 限定承認を行う
未成年や認知症の方は代理人が必要なケースも
判断能力に問題がある相続人がいる場合、適切な代理人を立てる必要があります。
未成年者の場合:
- 親権者が代理人となるのが基本
- 親権者も相続人の場合は特別代理人の選任が必要
認知症等の場合:
- 成年後見人の選任が必要
- 後見人選任には時間がかかるため早めの準備が重要
遺産分割協議でトラブルになりやすいケース
次のようなケースでは、思わぬ行き違いや衝突が起きやすくなります。冷静に対処できるよう事前に知っておきましょう。
不動産や土地がある場合
主な遺産が自宅の土地・建物だけだと、分け方に差が出やすくトラブルが起こりやすくなります。
<よくある問題>
- 自宅を相続する人とその他の相続人との不公平感
- 代償金を支払う資金が準備できない
- 不動産の評価額について意見が分かれる
<対策>
- 事前に不動産の適正な評価額を確認しておく
- 代償分割の資金計画を立てておく
- 公平感を保つため、換価分割も検討する
寄与分や特別受益がある場合
寄与分: 被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人の相続分を増やす制度
特別受益: 被相続人から特別の利益を受けていた相続人の相続分を減らす制度
<トラブルの例>
- 介護をした相続人の寄与分が他の相続人に認められない
- 住宅購入資金の援助を受けた相続人の特別受益の評価で争いになる
- 寄与分・特別受益の金額について意見が分かれる
これらの制度は客観的な証明が難しく、感情的な対立を招きやすいため、慎重な協議が必要です。
被相続人の元配偶者との間に子がいる場合
前妻・前夫との間に子がいる場合、その子も法定相続人となるため遺産分割協議への参加が必須です。
<よくある問題>
- 連絡先がわからない
- 面識がなくコミュニケーションが難しい
- 立場や考え方の違いからくる対立が起こりやすい
- 感情的なしこりの存在
このような場合では、専門家を介して協議を進めることをおすすめします。
こんな状況は要注意
- 相続人の中に連絡が取れない人がいる
- 感情的な対立が既に存在している
- 相続財産の大部分が不動産
- 介護や金銭援助で不公平感がある
- 法定相続人が多数いる
遺産分割協議を円滑に進める5つのポイント
トラブルを避けて円満に相続を進めるには、次の5つを意識しておくと安心です。
1. 情報をオープンに共有する
相続財産の内容は相続人全員で共有し、隠しごとをせず透明性を大切にする。
2. タイミングと礼節を大事にする
四十九日を過ぎて落ち着いた頃など節目を選び、礼儀を守って話し合うとスムーズです。
3. 財産の公平な評価を行う
不動産などは適正な評価額を専門家に依頼し、客観的な基準をもとに話し合いを進めましょう。
4. 専門家を活用する
弁護士・税理士・司法書士などの専門家を頼ることで、感情的な対立を避け、法律や税務の観点から冷静に整理できます。
5. 相続税対策の事前準備をする
特例の有無や税額に大きく影響するため、税務上の影響を事前に検討してから分割方法を決めるのがおすすめです。
これらのポイントについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット
相続は人生でそう何度も経験するものではありません。そのため「手続きが難しそう」「家族関係がこじれたらどうしよう」と不安を感じる方は少なくありません。そんなとき弁護士に依頼することで、次のようなメリットがあります。
法的リスクを回避できる
相続法や税法の専門知識により、思わぬトラブルや法的なリスクを未然に防げます。
感情的な対立を和らげる
中立的な調整役となり、感情的な対立を避け、法的根拠に基づいた冷静な協議を進められます。
手続きを効率化できる
書類作成や納期管理などを専門家が代行することで、時間と労力を大きく節約できます。
税務面もトータルサポート
相続税の計算や節税対策についても、税理士と連携してトータルサポートします。
家族関係を壊さず円満な相続ができる
専門的な知識と経験により、相続人全員が納得できる円満な解決を目指せます。
特に次のようなケースでは、早めの弁護士相談をおすすめです。
- 相続人同士の関係が疎遠または対立している
- 相続財産に不動産が含まれている
- 相続人の中に未成年者や認知症の方がいる
- 寄与分や特別受益の主張がある
- 前婚の子など複雑な家族関係がある
相続のことは虎ノ門法律経済事務所 上野支店へご相談ください
虎ノ門法律経済事務所 上野支店では、相続に関する豊富な経験と実績を持つ弁護士が在籍しています。お一人ひとりの事情を丁寧にお伺いし、法務と税務の両面から最適な解決策をご提案いたします。
当事務所の特徴
- 相続案件の豊富な取扱実績
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- 初回相談料無料
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「ちょっと聞いてみたい」という段階でも大丈夫です。お気軽にご相談ください。
円満な解決に向けて全力でサポートをいたします。
遺産分割協議に関するよくある質問
Q1: 遺産分割協議は誰が取り仕切る?
A1: 遺産分割協議を誰が取り仕切るかについて、法律上の特別な決まりはありません。一般的には次のような方が代表して進めることが多いです:
- 被相続人と同居していた方
- 被相続人の財産に最も詳しい方
- 相続人の中で最年長の方
- 他の相続人から信頼されている方
ただし、代表者が一人で決定できるわけではなく、最終的な合意は相続人全員で行う必要があります。
調整が難しい場合は、当事務所であれば、中立的な立場から協議を進行することも可能です。
Q2: 遺産分割協議書の作成は絶対に必要?
A2: 法的な義務はありませんが、以下の手続きに必要なので、実務的には必須です。作成することを強くおすすめします。
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 預貯金の名義変更・解約
- 株式の名義変更
- 相続税申告(分割内容の証明)
Q3: 遺産分割協議書は誰が作成するの?
A3: 相続人であれば基本的に誰が作成しても構いません。専門家に依頼する場合は、相続案件の取り扱いのある弁護士、司法書士、税理士または行政書士へ依頼することをお勧めします。
専門家に依頼することで、法的に不備のない適切な協議書を作成でき、後々のトラブル防止につながります。相続案件の取り扱いのある専門家を選定するのがポイントです。
遺産分割協議は複雑な手続きですが、適切な知識と準備があれば円満に進められます。少しでも不安を感じたら、早めに専門家にご相談ください。

