遺産分割協議の期限はいつまで?|期間内に手続きしないデメリットを解説

相続手続きの中でも重要な「遺産分割協議」は、法律上の期限は定められていません。

しかし相続税申告や相続放棄といった相続手続きには期限があり、それまでに遺産分割協議が進んでいないと不利な状況に陥ることもあります。

この記事では、遺産分割協議に関する期限・時効や、各種手続きを期間内に行わないデメリット、そして相続手続きをスムーズに進める方法について解説します。

目次

遺産分割協議自体には法律上の期限はない

結論から言うと、遺産分割協議・遺産分割協議書作成に法律上の期限はありません。相続開始から何年経っていても、遺産分割協議自体は可能です。

“共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。”

引用:民法907条|法令検索

遺産分割協議をしないとどうなる?

遺産分割協議に期限はありませんが、遺産分割協議が成立しないと、故人の財産は相続人全員で共有している状態となるため、各相続人のものになりません。

共有状態のままでは、遺産の使用や活用が困難です。トラブルに発展することもあるため、状況によってはなるべく早く分割したほうがよいでしょう。

相続税申告が必要なら「10ヶ月以内」に完了すべき

遺産分割協議を早く進めたほうがよいのは、相続税申告を必要とするケースです。相続税申告が必要なら、遺産分割協議は相続開始から10ヶ月以内に完了させなければなりません。

相続税の申告期限は10ヶ月以内

相続税の申告期限「10ヶ月以内」は、相続の中で最も重要な期限です。相続税の申告・納付期限は「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」とされています。

相続税の申告期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税を支払う必要が出てくるだけでなく、小規模宅地等や農地の納税猶予といった特例、配偶者控除などの税額控除を適用できなくなります。そのため相続税申告が必要な場合は、その期限までに協議を成立させるべきです。

なお、相続税申告が必要になるのは、相続財産が基礎控除を超えるケースです。

“被相続人から相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した各人の課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除額を超える場合、その財産を取得した人は、相続税の申告をする必要があります。

『遺産に係る基礎控除額』は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の算式で計算します。”

引用:国税庁

ただし相続税の申告期限を過ぎてしまっても、期限を故意に無視した訳ではないとみなされる場合は、自主的に期限後申告を行うことで課せられるペナルティを軽減できます。

また、「財産評価が間に合わない」や「遺産分割方法が決まらない」などの理由で期限を過ぎそうな場合は、概算の評価額で期限内申告したり、未分割申告をしたりする方法もあります。

相続税申告が不要でも適時の対応が大事

相続税申告が不要なケースの中には、地方の不動産を遺産分割せずに放置してしまうという事例が多く見られます。これは、地方の不動産は都市部に比べて地価が低く、相続財産の総額が基礎控除以下になり、相続税が発生しないことも多いため、申告も不要となるからです。

しかし、申告が不要だからと言って放置しているとデメリットが発生します。例えば不動産の場合は、そのまま放置しているといつまでも固定資産税などの費用がかかってしまいます。相続土地国庫帰属制度などを利用すれば負担を軽減できますが、放置していれば気づくこともできません。

たとえ相続税申告が不要でも、適時に適切に処理することで、将来の損失や親族間での紛争も予防できます。

相続放棄をする場合は「3ヶ月以内」の手続が必須

相続税の申告期限と同様に重要なのは、相続放棄の期限です。もし遺産を相続したくない場合、相続開始から3ヶ月以内に手続きしなければなりません。

相続放棄の期限は3ヶ月

相続放棄・限定承認の申出は、相続開始を知った日から3ヶ月以内です。相続放棄とは、遺産を相続する権利を放棄することを指します。

“相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。”

引用:民法915条|法令検索

例えば故人に多額の借金があり、それを相続したくないと思った場合でも、期限が過ぎていると相続放棄できません。

なお、相続放棄をすると、借金などのマイナスの財産に限らず、預貯金や不動産などのプラスの財産もまとめて放棄することになります。一方で限定承認とは、相続するプラスの財産の範囲内でマイナスの財産も引き継ぐ方法です。

相続放棄のメリットや留意点について、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:相続放棄

期限の延長申請が可能

家庭裁判所に「相続放棄期間の伸長」の申し立てをすることで、相続放棄は期限の延長が可能です。ただし、これはあくまでも「相続財産の調査」のための延長期間であり、「仕事や家事で忙しかったから」という理由では認められません。

ここまで、相続税申告・相続放棄の期限について解説しました。この2つは遺産分割協議においてとくに重要な期限です。関係のある方は、期限をなるべく厳守できるように手続きを進めましょう。

期限相続手続き期限を過ぎる主なデメリット
3ヶ月相続放棄借金があっても相続を拒否できない
10ヶ月相続税申告・無申告加算税や延滞税の支払い
・更正請求の手間
・控除や特例が使えない

知っておくべき相続関連手続きの期限・時効一覧

相続関連の手続きには、遺産分割協議以外にもさまざまな期限や時効があり、それぞれに対応する必要があります。

期限・時効相続関連手続き
7日以内・死亡届の提出
・火葬許可申請書の提出
14日以内・世帯主の変更届の提出
・健康保険の資格喪失手続き
・公的年金の受給停止手続き
3ヶ月・相続放棄
4ヶ月・所得税の準確定申告
10ヶ月・相続税の申告
1年・遺留分侵害請求
2年・死亡一時金の受け取り請求
・高額療養費の申請
・葬祭費・埋葬料の申請
3年・相続登記
・生命保険金の請求
5年以内遺族年金・未支給年金の受給申請
5年10ヶ月相続税の還付
10年特別受益・寄与分の主張

【7日以内】死亡届の提出

通夜や葬儀などで大変忙しい時期ですが、死亡届や火葬許可申請書などの提出が必要です。提出期限は、届出人が死亡の事実を知った日から7日以内です。

死亡届

届出人親族(同居の有無にかかわらず可能)、親族でない同居者や家主、後見人
提出先本籍地、死亡地、届出人の所在地のいずれかの市町村役場の戸籍・住民登録窓口
必要書類死亡届

正当な理由なく死亡届の提出をしなかった場合、5万円以下の罰金を科せられることもあるので、忘れずに提出しましょう。

火葬許可申請書

届出人親族(同居の有無にかかわらず可能)、親族でない同居者や家主、後見人
提出先死亡届出を受理した市町村長
必要書類火葬許可申請書

火葬許可をする市長村長と、死亡届出を受理した市町村長は同じなので、死亡届出と火葬許可申請書を併せて提出することが一般的です。

【14日以内】世帯主の名義変更・年金の受給停止など

14日以内の期限があるのは、主に以下の手続きです。

  • 世帯主の変更届の提出
  • 健康保険の資格喪失手続き
  • 公的年金の受給停止手続き

世帯主の変更届の提出

届出人新しい世帯主本人、または同一世帯の人、代理人(委任状が必要)
提出先市町村役場の戸籍・住民登録窓口
必要書類世帯主変更届、届出人の本人確認書類、届出人の印鑑、世帯全員分の保険証、委任状(代理人の場合のみ)

正当な理由なく期限を過ぎた場合、5万円以下の過料になることがあるので気を付けましょう。

健康保険の資格喪失手続き

日本国民は以下のいずれかの健康保険に加入しており、それぞれ手続き方法が異なります。

  • 協会けんぽ(全国健康保険協会)
  • 自営業者などが加入する国民健康保険
  • 75歳以上の方が加入する後期高齢者医療保険

【協会けんぽ(全国健康保険協会)】

届出人勤務先の担当者
提出先勤務先
必要書類亡くなった方の保険者証

手続きは勤務先の担当者が対応するため、勤務先に保険者証を返還するだけです。

【国民健康保険】

届出人世帯主、同一世帯の同居人、代理人(委任状が必要)
提出先市町村役場の医療保険課
必要書類保険者証、死亡を証明する書類、届出人の本人確認書類、届出人の印鑑

市区町村によっては、死亡届を提出すると資格喪失届は不要となるところもあります。

また、世帯主が亡くなり、同一世帯に加入者がいる場合は、保険証の世帯主欄を変更する必要がありますので、併せて窓口へ持参してください。

【後期高齢者医療保険】

届出人世帯主、同一世帯の同居人、代理人(委任状が必要)
提出先市町村役場の医療保険課
必要書類亡くなった方の保険者証、加入者の印鑑

国民健康保険と同様、市区町村によっては、死亡届を提出すると資格喪失届は不要となるところもあります。

いずれも期限を過ぎると、最初の保険料の納期の翌日から2年を経過した日から、保険料を減額変更することができなくなります。つまり、本来支払わなくてよかった保険料を支払わなければなりません。

公的年金の受給停止手続き

亡くなった方が国民年金か厚生年金に加入していたか、すでに年金を受給していたかによって手続きは異なります。

【国民年金】

届出人世帯主、同一世帯の同居人、代理人(委任状が必要)
提出先市町村役場の年金課などの窓口、または年金事務所
必要書類資格喪失届、年金手帳、死亡を証明する書類

【厚生年金】

届出人勤務先の担当者
提出先勤務先
必要書類資格喪失届、年金手帳、死亡を証明する書類

厚生年金は協会けんぽ(全国健康保険協会)の資格喪失手続きと同様に行われるため、手続きは勤務先の担当者が対応します。

【年金受給者】

届出人ご遺族
提出先市町村役場の年金課などの窓口、または年金事務所
必要書類受給権者死亡届(報告書)、亡くなった方の年金証書、死亡を証明する書類

いずれも期限を過ぎると、年金を多く受け取りすぎることとなるため、後で返還しなくてはならない場合があります。

【3ヶ月以内】相続放棄

相続放棄について、「遺産をもらわない=相続放棄した」と誤解している方も多いようです。遺産をもらわないと意思表示しただけでは、相続人であることに変わりないため、手続きを忘れずに行いましょう。

届出人遺産の相続を希望しない方
提出先亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
必要書類相続放棄の申述書、亡くなられた方の住民票除票または戸籍附票、申述する方の戸籍謄本、収入印紙書
※申述する方の状況により、必要な書類が異なります。


期限は、相続の開始を知った時から3ヶ月が基本ですが、その間にあらかじめ申述期間の延長を家庭裁判所に申立てておくか、遺産がまだ調査しきれていない場合は、延長が認められます。

【4ヶ月以内】所得税の準確定申告

準確定申告とは、故人に代わって相続人が行う確定申告です。相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内を期限として、税務署へ所得税の申告と納税を終える必要があります。

届出人相続人
提出先税務署
必要書類税務署の所定の申告書

正当な理由なく期限を過ぎた場合、本来の税額に加えて、無申告加算税と延滞税の罰則が科されるケースがあります。

【10ヶ月以内】相続税申告

すでに解説したとおり、相続税がかかるケースでは、10ヶ月以内の申告・納付が必要です。

届出人相続人
提出先税務署
必要書類税務署の所定の申告書

期限を過ぎた場合は、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税の罰則が科されることがあります。

遺産分割方法が決まらない場合は、法定相続分で相続したと仮定して暫定的に相続税を支払い、あとで「更正の請求」をすれば余分に支払った税金を取り戻せる「未分割申告」が可能です。ただし、相続税額を抑える「配偶者控除の税額軽減」「小規模宅地等の特例」などを適用することができず、相続税が高額になりやすいので注意が必要です。

【1年以内】遺留分侵害請求

「遺留分」とは、相続人が遺産をとりすぎた人に対して、相続人に認められた最低限度の金銭の支払を請求できる権利です。遺留分を主張して金額の支払を求めることを「遺留分侵害額請求」と言います。

遺留分侵害額請求の時効は、自分が遺産を受け取れないという内容の遺言書を知ってから1年、知らなくても10年です。

遺留分の請求は、受遺者や相続人に対して個別に求める場合は地方裁判所へ、当事者間で話合いがつかない時は、家庭裁判所に調停を申し立てます。

【2年以内】死亡一時金や葬祭料の申請

死亡一時金の申請

「死亡一時金」とは、遺族基礎年金を受給することができない遺族が、12万から32万円程度の一時金を受け取ることができる制度です。死亡一時金を受ける権利の時効は、死亡日の翌日から2年までです。

高額療養費の申請

亡くなられた方が高額な医療費を払っていた場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される健康保険の制度です。2年で時効を迎えます。

葬祭費・埋葬料の申請

健康保険から支給される給付の中に、「葬祭費」「埋葬料」という給付があり、加入者が死亡したことによって葬儀をしたときは、葬祭費の支給を受けることができます。申請期限は2年以内です。

【3年以内】生命保険金の請求

生命保険金は、被保険者が死亡してから3年を過ぎると時効により保険金の請求権が消滅します。ただ、保険会社によって書類が揃えば請求可能な場合もあるので、問い合わせてみましょう。

【3年以内】相続登記

2024年4月1日から「相続登記の義務化」が施行されました。相続人は、所有権の取得を知った日、または遺産分割が成立した日から3年以内に申請しなくてはなりません。正当な理由なく期限内に申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。

【5年以内】遺族年金・未支給年金の受給申請

遺族年金の時効は、生計を維持していた人が亡くなってから5年以内です。年金事務所に申請しましょう。また、5年以内に手続きを行えばこれまで受け取っていなかった未支給分もさかのぼって受給可能となります。

【5年10ヶ月以内】相続税の還付

過去に相続税を払いすぎていた場合「更正の請求」という手続きにより、国から返金してもらえます。申請先は税務署です。相続開始から最短で5年10ヶ月を過ぎると、納め過ぎた相続税を取り戻すことができません。なお、正確には法定納期限から5年であり、5年10ヶ月は最短の期間です。

【10年以内】特別受益・寄与分の主張

被相続人からの遺贈または贈与によって、相続人が得た特別の利益を「特別受益」、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができる制度を「寄与分」と言います。

令和5年民法改正で、特別受益・寄与分の主張は10年以内になりました。これを過ぎると特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分に従って財産を分けることになり、特別受益や寄与分を主張すれば多くの遺産を相続できたはずの相続人は、取得する財産が少なくなってしまいます。

施行日から5年以内に期日が来る場合は、猶予期間として特別受益や寄与分を主張可能です。

遺産分割協議の流れ

遺産分割協議書を作成しなければならないのは、主に遺言書がない場合です。有効な遺言書があった場合は、基本的にその遺言に沿って手続きを行います。

遺産分割協議は、以下のような流れで進みます。

  1. 遺言書の有無を確認
  2. 法定相続人の確認
  3. 相続財産の確認
  4. 遺産分割協議の実施
  5. 遺産分割協議書の作成

遺産分割協議を円滑に進める方法

遺産分割協議のゴールは、「遺産分割協議に参加した当事者全員の合意」です。トラブルなく円満に解決するために、以下のポイントを重視しましょう。

  • 事前情報の共有と透明性
  • タイミングよく礼節あるコミュニケーション
  • 公平な価値評価の確保
  • 専門家の利用
  • 相続税対策の事前準備

詳しくは、関連記事「円滑に進める5つのポイント」をご確認ください。

遺産分割協議・相続手続きは弁護士に依頼するとスムーズ

ここまで解説したとおり、相続手続きには相続税申告をはじめとする複数の期限・時効があります。

期日を守るには迅速かつ正確な対応が求められますが、日々忙しく過ごしている方にとって、これらを自力で進めるのは大きな負担です。さらに、相続人間で意見の対立や誤解が生じることでトラブルに発展する場合もあり、そのような状況で期限を意識しながら手続きを進めるのは一層困難でしょう。

そのため、遺産分割協議をはじめとする相続関連手続きを、相続に強い弁護士に依頼するのも選択肢のひとつです。各種期限の管理や手続きを代行してもらえるのはもちろん、相続人間で意見の対立が生じた場合、法律のプロの立場から的確な助言を受けられ、解決に導いてもらえます。

余裕を持って、円満に遺産分割協議を終えるためにも、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。

遺産分割協議・相続手続き代行は虎ノ門法律経済事務所 上野支店へ

遺産分割協議・相続手続きの相談は、弁護士に依頼すると解決がスムーズです。中でも相続案件の豊富な実績があり、相続を強みとしている弁護士を検討するとよいでしょう。

当ブログを管理している「虎ノ門法律経済事務所 上野支店」の弁護士は、税理士資格も保有しており、相続に関する広範囲のサポートが可能です。45年以上の伝統に培われた高い専門知識と総合力で、遺産相続に関するあらゆるお悩みにお応えします。

遺産分割協議・相続手続き代行は、ぜひ虎ノ門法律経済事務所 上野支店へお任せください。

虎ノ門法律経済事務所 上野支店

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次