相続生前対策【財産管理・後見・家族信託】

目次

財産管理・後見

任意後見制度・任意後見契約とは?

本人が元気なうちに、将来、認知症等により判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ自分が選んだ代理人(任意後見人)に、自らの生活や療養看護、財産管理に関する事務についての代理権を与える契約を公正証書で結んでおくことを「任意後見契約」といいます。
本人の判断能力が低下した後は、任意後見人が、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもとで、契約で決めた内容についての事務手続きや契約行為を本人に代わって行います。

任意後見人には一般的に誰がなるのか?

任意後見人となる者に法律上の資格の制限はありません。したがって誰でもなることができます。個人のみならず法人でも構いません。 一般的には家族や専門職(弁護士、司法書士、行政書士、一般社団法人、NPO法人等)に任意後見人を依頼するケースが多いようです。
家族に依頼する場合は、報酬を抑えられるのが利点ですが、相応の事務負担があることを家族にきちんと認識しておいてもらう必要があります。また、他の家族との間で諍いの種にならないか注意が必要です。家族間で適切な距離感を保つためには、報酬はかかりますが、専門職に依頼することも有効です。
個人に依頼すると何らかの事情でその者が仕事をできなくなったときの影響が大きいため、その点にも配慮するならば法人に依頼するのが、現状最も安心できる選択肢といえます。後見の担い手が不足すると言われている中で、専門法人による任意後見は今後増加していくものと予測されます。

任意後見人の権限は? 取消権はあるのか?

任意後見のメリットは、信頼できる者との間で、何をどのようにサポートしてもらえるか、自由に決められることです。
とはいえ、何でも自由に定められるわけではなく、任意後見制度は成年後見制度の一つですので、生活、療養看護(生活環境の調整・手続き等)及び財産の管理に関する事務を主たる内容として、その中で任意後見人にどこまで任せるかを調整することになります。 任意後見人の権限(代理権)は、本人保護に不足が生じないように、実務上は包括的に広く定めておくことが一般的です。

ただし、任意後見人は、通常法定後見人に認められる取消権を持っていないことには注意が必要です。そのため、本人が高額で不要な物を買い続ける等取消権を必要とする状況では、法定後見に切り替えざるを得ない場合もあります。

任意後見と法定後見、財産管理委任との違いは?

任意後見とは、ご本人の判断能力が認知症等により低下する前に、公正証書による契約により、あらかじめ将来任意後見人になる人(任意後見受任者)を決めておく制度です。
判断能力が不十分になった時点で、家庭裁判所に申立てを行い、任意後見監督人が選ばれることによって、あらかじめ決めておいた任意後見人がご本人のために活動を開始します。お元気なうちにご自身の考え方やご希望等を任意後見受任者に伝えておくことにより、ご本人の判断能力が低下する前に抱いておられた価値観を、後見業務を行う際に反映させることができるというメリットがあります。

これに対し、法定後見は、ご本人の判断能力が低下した後に、ご本人や家族等が家庭裁判所に申立てを行うことにより、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。誰を後見人等にするかは家庭裁判所が決定するため、後見人になりたい人やなってもらいたい人(家族等)が選ばれない可能性があります。ご本人の判断能力の程度によって補助・保佐・後見の3類型に分けられ、類型によって後見人等の権限の範囲が異なります。
財産管理委任(任意代理)は、ご本人の判断能力がある状況において、財産管理等の業務を依頼したい場合に利用されます。あらかじめ契約を結んでおくことにより、将来、病気や体力低下により銀行や役所等の手続きをご自身で行うことが困難になってしまった場合等、ご自身にとって開始してもらいたいと考えた時点から利用することも可能です。
任意後見契約とあわせて契約しておくことによって、判断応力がある時点から低下したときまで一貫したサポートを受けられます。

財産管理・後見に関する費用

財産管理委任契約書作成費用・任意後見契約書作成費用

財産管理委任契約書作成費用7万円
任意後見契約書作成費用7万円

財産管理・任意後見公正証書作成時にかかる公証役場の手数料

費目手数料
①公証役場の手数料 *11万1,000円
②法務局に納める印紙代 *22,600円
③法務局への登記嘱託料1,400円
④書留郵便料約540円
⑤正本謄本の作成手数料1枚250円×枚数
⑥出張費用・(役場外執務) *3出張費、日当、交通費・旅費

*1:証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円が加算されます。

*2:1万1,000円を加算

*3:出張費(①の2分の1を加算)、日当(2万円(4時間以内は1万円))、交通費・旅費(実費)

財産管理人・任意後見人報酬

財産管理人・任意後見人報酬2万円~5万円の範囲内で応相談(3万円を基本とする)

民事信託

こんなお悩みは民事信託で解消できます!

  • 障がいをもつ親族や子どもがおり、自分の亡くなった後の財産管理が心配な方
  • 前妻や前夫の連れ子がいる等遺産分割協議に不安がある方
  • 二次相続以降の資産承継に不安や希望の方法がある方
  • 不動産や株式を保有しており、相続が発生した場合、共有名義になる可能性がある方
  • 経営権を引き継ぎたいが、贈与や譲渡をすると税金が心配な方

民事信託とは

1. 信託契約とは

信託とは、簡単に言えば「他人を信じて何かを託す」ことです。
信託契約には、委託者・受託者・受益者という3つの立場があり、委託者とは、他人に何かを依頼する人、受託者とは、依頼される人、受益者とは、その信託契約で利益を受ける人のことをいいます。
たとえば、高齢者のAさんと、孫の小学生Bさんが二人暮らしで、他に身寄りもいない場合に、Aさんが自分が亡くなった後のBさんの生活のことを心配しているとします。Aさんが、現在人に貸している不動産をもっていた場合、この不動産を信用できるCさんに預けて管理してもらい、Bさんが成人するまでBさんの経済面の面倒をみてもらうようにお願いしました。
これを信託契約といいます。この場合、Aさんは委託者、Cさんは受託者、Bさんは受益者にあたります。契約はAさんとCさんの間で結ばれます。

信託契約は、信託会社などがビジネスを目的として不特定多数の者と行うもの(商事信託)と、ビジネスを目的とせずに行うもの(民事信託)があります。
民事信託は、ビジネスを目的とせずに行う民事信託の中で、特に、親族・家族の間で行われる信託契約のことを指します。高齢者の認知症対策や、障がい者の親なき後問題など、様々な場面で利用されます。

2. 信託契約の効果

信託契約によって、財産が信託されると、財産の所有権は、委託者から受託者に移ります。この財産を、「信託財産」といいます。
しかし、所有権があるからといって、受託者が自由に信託財産を処分することはできません。信託契約で定めた目的や、管理方法などにしたがって、管理や処分などを行います。受託者は、あくまでも委託者の希望を叶えるために、財産を所有するのです。

信託財産の管理や処分をした結果、得た利益は、受益者が受け取ります。上記に記載した事例では、孫のBさんの生活費や学費にあてられるでしょう。
また、委託者自身が受益者にもなれるので、高齢者が認知症になる前に契約を結び、自分の子や孫に財産を移し、信託財産や信託財産から生じた利益から、高齢者自身の生活費や介護費用などを払ってもらう、ということもできます。

3. 信託契約のメリット

(1) 委託者の意思を尊重することが可能

信託契約では、委託者が財産の処分や管理の方法を決めることができます。受託者は信託契約の内容に従って財産管理を行うため、委託者の望んだとおりのことが実現できます。

(2) 財産の隔離

受託者に財産の所有権は移りますが、受託者個人の固有の財産からは隔離されます。その結果、受託者が破産をしたり、強制執行を受けた場合にも、信託財産は影響を受けません。

(3) 受益者の収益の確保

受益者が、資産の管理や生活能力がない場合であっても、受託者が財産管理や処分などを行うため、受益者自身は何もしなくても利益を得ることができます。

(4) 受託者や受益者が亡くなった場合の備え

受託者や受益者が亡くなった場合にどうするかについて、考えておく必要があります。
たとえば、高齢者の男性Aさんが委託者兼受益者、その長男Bさんが受託者となり不動産管理についての信託契約を締結した場合、不運にもBさんが交通事故で亡くなってしまうことも考えられます。その場合に備え、次男Cさんが、Bさんに代わって受託者になる、ということを契約で定めることもできます。
また、Aさんには、妻Dさんがいて、Aさんが亡くなったあとにはDさんに賃料収入が渡されるようにしたい、という希望があったとします。その場合には、契約時の受益者をAさん、Aさんが亡くなった後に第二次受益者としてDさんとする契約を締結することもできます。

4. デメリット

(1) 民事信託の費用

民事信託契約をどのような内容にするかについては、自由度が高い分だけ、契約条項が煩雑になりやすかったり、法律的にそれが可能なのかを検討しなければならず、専門的な判断が必要となります。そのため、民事信託契約は、弁護士のような法律家に、契約書の作成等の手続を依頼することが一般的であり、費用がかかります。
また、信託財産の中に不動産が含まれる場合には、別途、登記手続に必要な司法書士費用、登録免許税などの費用もかかることに注意が必要です。

(2) 誰が受託者になるかで揉めることもある

受託者には、信託財産に関する権限が与えられることから、委託者に子どもが複数いるなど、相続人となる予定の親族が何人もいる場合、誰が信託財産の管理をするのか、すなわち受託者になるのか、という点で、揉めることもあります。
そういった場合、信託監督人を契約によって定め、受託者の管理行為を監視したり、受託者の権限自体を制限するなどの方法により、他の親族の理解を得られるような工夫をします。
たとえば、受託者には不動産の賃料を管理する権限は与えるけれども、勝手にその不動産を売ることはできないようにする、などです。

民事信託にかかる費用

信託設計費用

信託設計費用信託財産の評価額の1%(最低30万円)

公正証書作成費用

目的の価額手数料
100万円以下5000円
100万円を超え200万円以下7000円
200万円を超え500万円以下11000円
500万円を超え1000万円以下17000円
1000万円を超え3000万円以下23000円
3000万円を超え5000万円以下29000円
5000万円を超え1億円以下43000円
1億円を超え3億円以下4万300円に5000万円までごとに1万3000円を加算
3億円を超え10億円以下9万5000円に5000万円までごとに1万1000円を加算
10億円を超える場合24万9000円に5000万円までごとに8000円を加算

登録免許税及び司法書士費用

信託評価額費用
~1億円1%(最低でも30万円)
1億円~3億円以下0.5%
3億円~5億円以下0.3%
5億円~10億円以下0.2%
10億円以上0.1%

受益者代理人、信託監督人報酬

受益者代理人、信託監督人報酬月額1万円

上野支店から

高齢化社会のなかで、財産管理・後見契約を必要とされる方が増えています。ただ、後見だとうまくいかない、という場合も少なくありません。

そうした場合に、民事信託を使える場合があります。当事務所にも、多くのご相談を頂いております。お気軽にご相談ください。

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