1.遺産分割調停の概要
遺産分割調停とは、相続人間で生じた遺産の分割についての紛争を解決するための手続き**です。亡くなった人が遺した財産(遺産)について、相続人が自由に取り決めをすることができず、分割について意見が一致しない場合に、裁判所を通じて解決を図るものです。ここでは、その遺産分割調停の目的や、調停の対象となるもの、ならないものについて理解を深めていきましょう。
遺産分割調停の目的
遺産分割調停の主な目的は、相続人間での遺産の分割についての意見の対立を裁判所を通じて解決し、適切な遺産分割を図ることです。この調停は、相続人が自主的に決定できなかった場合や、意見の食い違いが発生した場合に利用されます。それにより、全員が納得できる形で遺産が分割され、無用な争いを防ぐことが期待されます。
遺産分割調停の対象
遺産分割調停の対象となる財産は、相続人間での合意がない限り、被相続人が死亡時に保有していた財産(遺産)で、遺産分割時点で遺産として現存しているもの、になります。そのため、例えば、一般的な債権や債務、いわゆる使途不明金や死亡後の引出金などは、相続人間での合意がない限り、調停の対象になりません。
より詳しくみていきましょう。
2.遺産分割調停の対象範囲
遺産分割調停の対象になるものとならないものについて詳しく見ていきましょう。遺産分割調停の対象になるものは、亡くなった人、つまり被相続人が残した財産(遺産)のうち、遺産分割時点で遺産として現存しているものです。しかし、被相続人の死亡に関する全ての財産が対象となるわけではありません。では具体的に何が対象となり、何が対象外となるのでしょうか。
法律上、被相続人の財産でないもの
最初に、法律上、被相続人の財産でないものは、遺産分割調停の対象になりません。
例えば、生命保険金は、保険契約者が指定した受取人に直接支払われる契約であり、受取人固有の財産であって被相続人の財産ではないため、一般的には遺産とは認識されません。
相続の発生で自動的に分割されるもの
また、被相続人の財産でありながら、相続の発生とともに自動的に分割され相続人に移転するものも遺産分割調停の対象にはなりません。典型的には、一般的な金銭債権や債務がこれにあたります。実務上多いものとして、いわゆる(生前の)使途不明金や、貸付金、借入金などが挙げられます。
遺産分割時点で遺産として現存しないもの
さらに、被相続人の財産でありながら、遺産分割時点で遺産として現存しないものも遺産分割調停の対象にはなりません。たとえば、被相続人の死後に引き出された預金などがこれに該当します。被相続人の預金は遺産ですが、引き出されて費消されてしまった場合は、分割のしようがないということで、遺産分割の対象から外れます。
相続税申告の遺産との違い
以上から、遺産分割調停の対象となるものと、相続税申告の遺産とは必ずしも一致しないということを理解することも重要です。相続税法上の遺産とは、被相続人が亡くなった時点で所有していた財産や権利全体を指します。また、その評価も、相続税においては相続開始時点でのものになる一方、遺産分割調停においては、原則として遺産分割時点となります。そのため、遺産分割調停の対象にはならないが、相続税申告においては課税財産となるという場合が生じます。この違いを正確に理解することで、相続税申告の資料を遺産分割調停に活かすことが可能になります(理解しない場合、調停において、その整理をする必要があり、数ヶ月を無駄に過ごすことになるでしょう。)
遺産分割調停は、相続人間での遺産の分割についての意見の対立を解消し、平和的な解決を図るためのものです。しかし、その対象となるもの・ならないものは、相続税申告と異なる部分もあることも相まって、複雑にみえてきます。「被相続人が残した財産(遺産)のうち、遺産分割時点で遺産として現存しているもの」という定義に照らして考える必要があります。
3.遺産分割調停の流れ(段階的進行モデル)
東京家庭裁判所での遺産分割調停は、概ね、以下のステップを踏んで進行することを目指すものとされています。(段階的進行モデル)
- 1. 相続人の確定: 遺産分割調停は、まず第一に相続人が誰であるかを確定します。法定相続人以外に遺言による相続人がいる場合もありますので、注意が必要です。
- 2. 遺産の範囲の確定: 確定した相続人たちが相続する遺産の範囲を明らかにします。ここでは、前章で説明した「遺産分割調停の対象になるもの」と「ならないもの」の理解が重要になります。
- 3. 遺産の評価の確定: 確定した遺産の評価を行います。遺産となる財産や権利の価値を適正に評価することが重要となります。
- 4. 特別受益・寄与分の考慮: 特別受益とは、被相続人の死亡前に相続人が受けた利益のことを指し、寄与分とは相続人が遺産の維持・増加に貢献した部分のことを指します。これらは分割に影響を及ぼすため、評価とともに考慮に入れます。これにより、具体的な相続分が確定されます。
- 5.分割方法の決定: 最後に、確定した相続分に基づいて、遺産をどのように分割するかを決定します。これは、財産が預貯金や上場株式等の金融資産のみであれば比較的簡単ですが、不動産や非上場株式などが含まれている場合は、より複雑な手続きとなります。
個々の詳しい内容は、別の機会にお伝えできればと思います。
4.遺産分割調停のスケジュールと終了までの手続き
遺産分割調停は、申立てから終了までにいくつかの重要なプロセスがあります。この章では、その大まかなスケジュールと各ステップを説明します。
- 1. 申立て: 遺産分割調停は、相続人の一人または複数人が裁判所に申立てを行うことから始まります。申立ての書面には、調停を求める理由や相続人の情報、遺産の情報などが必要となります。
- 2. 裁判所側の体制:調停委員会が構成されます。調停委員会は裁判官1名と調停委員2名で構成されます。東京家裁では、調停委員は男女1名ずつ、いずれかが弁護士等の専門職の場合が多いです。裁判官は調停期日には基本的に参加しません。しかし、裁判官と調停委員は、適宜、進行について協議をします。この協議を評議と呼びます。評議は調停期日の前後や、期日当日に行われます。(期日当日に評議が行われる場合、長時間待つことになる可能性があります。)
- 3. 第1回調停期日: 申立てが受理されると、裁判所は第1回の調停期日を設定します。東京家庭裁判所では、申立ての受理から概ね2か月後くらいに、指定されることが多いようです。
- 4.調停期日の流れ:調停期日では、調停委員と申立人側、調停委員と相手方側という具合に、交互に調停室で調停委員と協議していきます。(同席で行う場合もありますが少ないです。)
1度の協議は、概ね20〜30分を目安にしています。調停期日、1回あたり長くても1時間30分が目安とされています。
協議が終わると、調停期日は終了します。その後の調停期日は、その場で調整して指定されます。次回期日までに、誰が何を主張・立証する準備をするかなどが整理されますので、次回期日までに対応する必要があります。 - 5. 調停の進行: 第1回調停期日以降、概ね1か月おきに、調停期日で申立人と相手方とが交互に調停室で調停委員と協議します。
- 6.中間合意:遺産の範囲、遺産の評価等、前述したステップごとに、中間合意を行う場合があります。中間合意調書というものを作成します。これには法的な拘束力はないといわれますが、協議を継続するうえでの共通前提として機能します。
- 7. 調停の終了: 調停は、以下のいずれかの状況で終了します。
– 調停成立: 申立人と相手方が合意し、遺産の分割方法が確定した場合、調停は成立となります。調停の成果は、調停調書にまとめられます。
– 調停不成立: 合意に至らなかった場合、調停は不成立となります。この場合、遺産分割審判へ自動的に移行します。
– 申立人による取下げ: 申立人が調停の申立てを取り下げることもあります。その場合、調停は終了します。
「なさず」:家事事件手続法第271条: は「調停委員会は、事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは、調停をしないものとして、家事調停事件を終了させることができる。」と規定します。裁判所が、調停になじまないと判断すると、調停が不成立にもならずに終了し、審判にも移行しないことになります。内容が合理的でない場合に「なさず」となる場合があります。
5.調停の終了までの目処
遺産分割調停はどのくらいで終わるのか?と質問されることがあります。事件の内容や参加者の意向により異なりますが、何らかの目処を立てることは、全体の流れを把握し、適切な行動をとる上で役立ちます。
- 1. 法律上の期間制限: 法律上、遺産分割調停の期間に特定の制限はありません。ですので、調停がいつ終わるかを申立前に正確に予測することは難しい、というより不可能です。
- 2. 筆者の考える目処:とはいえ、私個人としては、調停がスムーズに進行する場合、5回目の調停期日までに解決の道筋が見えてくる(解決に向かわないことが明確になってくる)ことが多いと感じます。つまり、申立てより概ね半年~9か月程度が経過した頃です。その後、争点についての議論を深め、裁判所の関与のもと、互譲ができれば、1年程度で調停が成立します。8回目の調停期日までに方向性がみえないという場合、それは比較的難しい事件であると考えた方がよいでしょう。